2018年からJ-GP2クラスにチャレンジ
2年目に念願のタイトル獲得

 2018年はJ-GP2クラスにステップアップ。前年に水野がチャンピオンとなったマシンHP-6qを駆って、MuSASHi RT HARC-PRO.から全日本タイトル獲得を目指すことになった。

 一般市販車に小改造を施して戦うST600マシンと異なり、同じCBR600RRのフレームをベースとしながらも、サスペンションやスイングアームなど独自に設定されたものがJ-GP2クラスでは使えることから、乗り味は純粋なレーシングマシンに近く、セッティング幅も広い。

 ST600やEWCマシンで学んできたことが、このHP-6qで活かすことができ、シーズン前のテストから名越は順調にマシンのセットアップを進めることができた。

 開幕戦ツインリンクもてぎのレースウイークは初日から好調で、予選はウエットになったがそれでもセッションを積極的リードし、全日本初のポールポジション獲得を果たした。

 ドライとなった決勝も自信を持って臨み、序盤からトップ争いに加わったが、5周目にチームが長いレースの中で遭遇したことのないという想像もできないマシントラブルが発生。リタイヤとなってしまった。

 続く第3戦SUGOのレースで3位表彰台を獲得するが、全日本初優勝を遂げるのはこのシーズンの最終戦鈴鹿まで待たなければならず、この年のランキングは3位。

 また前年に一つのジャンプボードとなった鈴鹿8耐には、この年も同じチームから参戦。予選では2’09.630と9秒台へ入れる速さを見せることもできた。

 2019年は、引き続きJ-GP2クラスに参戦。獲れなかったタイトル獲得を目指した。

特にこのシーズンを最後に、全日本からJ-GP2クラスがなくなることがシーズン前にアナウンスされていた。世界で活躍するライダーを育てるカテゴリーを全日本に作ろうと、チーム監督の本田重樹さんが中心となって協会に提案し、形になったJ-GP2クラス。そのためにマシンが必要とチームが造り出した1台が、名越の駆るHP-6qだ。

マシン名のHPは、もちろん名越の所属するチーム『HARC-PRO. 』のHP(『q』は、進化を遂げた四型目という意味)。初代タイトルを獲得し、全日本でこのクラスが行われてきた10年間の中で3度のタイトル獲得を果たしているチームに有終の美を飾りたい。名越はそんな想いも抱きながら、このシーズンを戦うことになった。

 開幕戦ツインリンクもてぎのレースは、前年同様ポールポジションを獲得。決勝はその勢いのままトップでチェッカーを受け、幸先の良いスタートを切ることができた。

 続くSUGOのレースは2位。第4戦筑波は雨の第1レースが2位、翌日のドライの第2レースでは優勝と、毎回優勝争いに絡める位置に付け、ランキングも同点で1位に並んだ。

 また第3戦SUGOと第4戦筑波のインターバルには、MotoGPのMoto2クラスに負傷したライダーの代役で出場。初めてのムジェロサーキット、初めてのカレックスフレーム、初めてのMoto2用ダンロップタイヤと、初ものづくしでのGP初参戦となった。

 世界中のトップライダーが集うグランプリ。名越は大幅なタイムアップを図りながらセッションを進めるが、ライバルはそのはるか先にいる。予選は最後尾の32番手。決勝は序盤に22位までジャンプアップし、予選を上回るタイムでラップしたが無理がたたり転倒。リタイヤで初GP参戦を終えた。

「オーバーペースなのは分かっていたけど、チャレンジしないとせっかくイタリアまで来た意味がない。世界のレベルをよりリアルに経験したかったし、失うものはなにもないのでトライし続けた」と名越。

 足りないもの、自分がやるべきことが明確になった名越がまずすべきことは、全日本の中でのスキルアップ。目の前のセッション一つずつ、全力でトライする結果が、筑波でのレース結果に繋がった。

 全日本後半戦は、第6戦岡山が急に降りだした雨にセッティングを合わせきれず5位。しかし第7戦オートポリスで優勝し、チャンピオンに王手をかけると、最終戦は2位で見事タイトル獲得を果たした。

 圧巻だったのが最終戦の予選で、コースレコードとなる2’09.428と、JSB1000クラス並みのタイムを600ccマシンでマークし、ポールポジション獲得した。既にJ-GP2クラスで2’09秒台はマークされていたが、それは予選に合わせ込んだタイヤを使ってのもの。名越は決勝で使うタイヤを装着してマークし、実際に決勝も9秒台には入らなかったものの、10秒前半という速さで周回して見せたのだった。

 一つ一つステップを踏み、自らのライディングスキルを磨き上げ、レベルアップしてきている名越哲平。

 今季は新たに作られたST1000クラスを、ニューマシンCBR1000RR-Rで戦う。

 3月末のもてぎ、さらに4月上旬に鈴鹿でテストを行い、順調な仕上がりを見せている。やはりここでもチームから名越が評価されたのは、着実な走りと一つ一つのテストメニューをこなすその姿勢だった。

 レーシングライダーは自分の現在位置を知るため、どうしても一発タイムを出したがる。ライバルとの差はどれくらいなのか、例え1周だけでも速いラップタイムをマークし、優位性を見ておきたくなるものだ。

 しかしマシン開発を行う場合、最終的にはもちろんタイムを追求していくのだが、その手前のバランス取りやタイヤとのマッチングなど、様々なテストメニューをこなすことが大事。そうして仕上げていった先でタイム出し作業となるわけで、そのプロセスが非常に重要となる。

 名越はチームとミーティングを重ね、テスト項目をこなしながら、目の前のセッションをこなしていた。

 結果的にST1000勢の中でトップタイムとなる2’08.8という、改造範囲がさらに広いJSB1000クラスでもなかなか出ないタイムをマークすることとなった。

「マシン開発テストがメインなので、タイムを全力でねらって出したわけではないし、それでも良いタイムが出たのは順調に仕上がっているということだと思います。目先のタイムを追っても現状ではあまり意味ないことだと思うし、それは、チームがぼくの手綱をうまく引いて抑えているからもしれません。レースで良い結果を出すためにはマシンをしっかり仕上げることで、その点で高い技術を持っているチームなので不安はないですし、さらにはJSB1000の水野選手も仕様は違いますが同じマシンに乗っていて、さらには榎戸選手も同じST1000仕様。他の2台からのフィードバックもあるので、ライバルに対して開発のスピードは速いと思います」と名越。

「チャンピオンになったから落ち着きがあるのか、本人に自信があるのか、焦らず確実に積み上げているので頼もしいですね。テスト項目に対するインフォメーションが返ってくるし、課題に対してのアプローチもしっかりやっているので良い雰囲気です」とは、テストを終えてのチーフメカニック堀尾勇治さんの名越評。

この言葉は、現状を的確に表しているのではないだろうか。

 着実なスキルアップを図り、成長を続ける名越哲平。今季は新しいST1000クラスでどんな成長を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。