プロフェッショナルチームで初めてバイクの奥深さを知る

レーシングライダーを大別すると、2種類に分けられる。  1つめはバイクが大好きで、その延長線上で『レース』の世界に入っていたタイプ。バイクで走ることが大好きで、乗ることが上手。バイクが大好きだから、24時間バイクのことを考え続ける。  もう1つのタイプは、『勝負』することが大好きというレーシングライダー。バイクは好きだけど、もしバイク以外でも他人と勝ち負けを決める競争できることがあるのなら、そちらを選んでも良い。目の前にバイクがあり、他人と勝ち負けを決める、もっと言えば自分が優れていることを証明するためにレーシングライダーになった、というタイプだ。  筆者は30年以上にわたってロードレースの世界でライダーのインタビューなどをしてきているが、ほぼすべてのライダーがどちらかのタイプに入っていた。  しかし水野 涼はそんな筆者にとって、まったく新しいタイプだった。  ポケバイ、ミニバイクと、ほぼすべての若手ライダーが辿る道を同様に歩いてきた水野だが、その才能の高さ故、どちらのカテゴリーでも頂点を極める常勝チーム、いわゆるファクトリーと呼ばれるようなチームに所属してきた。勝つことを期待され、それに応え続け、ロードレースの世界にステップアップしてきた経歴を持つ。  全日本参戦2年目の2014年、MuSASHi RT HARC-PRO.のJ-GP3クラスライダーに抜擢されて数戦経ち、水野とゆっくり話をする時間が持てたとき、水野は「バイクのレースはどちらかと言えば嫌いだった」と言ったのだ。

どういうことかとさらに尋ねると、「ポケバイ、ミニバイクと勝って当たり前というファクトリー的チームに所属し、勝利を期待され、戦ってきた。常にプレッシャーの中で走ってきたから、とても楽しめるような状況ではなかったし、レースは自分にとって仕事のようなものだった」と説明する。  ところが、「嫌いだった」とそのとき過去形で応えたのは、話をした時点でもう、そうではなくなってきたから。理由は、MuSASHi RT HARC-PRO.のライダーになり、バイクに乗るのが楽しくなってきたからだ。

ハルク・プロのトップチームのライダーになり、プロフェッショナルなメカニックが水野に付いた。走行ごとに本格的なバイクのセットアップがされるようになり、さらにはライディングに対しても担当メカニックからさまざまなアドバイスを受け、水野は今まで以上に考えるようになっていた。 「メカニックにコメントするとその言葉が次の走行の時にしっかりバイクに反映され、明確にマシンの状態が変わってくる。ライディングに対してもアドバイスがあり、それにチャレンジすると、良いとか悪いとか、必ず明確な答えが出てくる。バイクの奥深さを初めて経験できているし、本当に面白い。バイクのレースが楽しいって、初めて感じています」

この2014年は、開幕戦オートポリスで終始トップ争いに加わり、トップから僅か0.743差で4位となると、次戦ツインリンクもてぎの第1レースで全日本初表彰台となる3位を獲得。続く第2レースも連続して3位表彰台ゲット。第4戦スポーツランドSUGOでは初優勝。結果的にこのシーズンは、チャンピオンと5点差のランキング2位となった。

続く2015年もJ-GP3クラスに継続参戦。全5戦中3勝してチャンピオンを獲得する。  マシンをどうセットアップしていけば良いのか。ライダーとしてどのようなライディングをしていけば良いのか。予選時間の使い方は?決勝に向けてのセットアップは?実戦の中で水野はプロフェッショナル・メカニック、チーム監督を始めとしたスタッフのアドバイスを受けながら多くのことを学び、トップチームからの参戦2年目で当面の目標だったシリーズチャンピオンを手にしたのだった。(2/3へつづく)