JSB1000クラスでの水野の成長の度合いを見る

ここで、表1と表2を見ていただきたい。

 

表1は、2017年の高橋選手と2018年の水野のタイムを比較したもの。前述したように、水野にとってJSB1000クラス1年目の2018シーズンは、前年にMuSAShi RT HARC-PRO. HondaからJSB1000クラスに参戦していた高橋選手のマシンそのものを駆った。そのため、前年の高橋選手のタイムが、このクラス1年目の水野の指標となったのだ。開幕戦もてぎでは約1秒差があり、鈴鹿2&4では2秒と厳しい。しかし水野の得意とするオートポリスでは高橋選手を上回っており、秘める可能性の片鱗を見せている。

 

表2の水野は、2019年前半戦を高橋選手の駆った2018年型モデルだったので、2018年の高橋選手のタイムと2019年の水野をグレー部分で比較している。鈴鹿以降は高橋選手と同じ2019年型のファクトリー仕様になったので、その二人のタイムの比較を青い部分で比較している。

2019シーズン前半の戦いの中で成長を見せた水野は、それを証明する絶好の場となる鈴鹿8耐をこの後、迎えることになった。前年の8耐は水野にとって悔しさの残るもので、それを晴らすには、同じ場で自らの成長を示すしかない。
既に4月の鈴鹿2&4で水野は2’05.745を出している。8耐テストからニューマシンになるが、それも先輩高橋が既に実戦で走らせており、データもある。
テスト、レースウイークと水野は助っ人ライダー二人と遜色のない走りを見せ、決勝へ向けて順調に作業を進めていく。残念なことに、予選中の作業ミスからチームはピットスタートを強いられ、スタートの時点で既にトップから90秒のハンディを背負わなければならなくなった。

目の前で展開されるトップ争いとは別の、マイナス90秒をレースでどれくらい削っていくのか、という戦いを、2019年のMuSASHi RT HARC-PRO. Hondaは強いられたのだ。
スタートライダーを任された水野は全車が1コーナーに消えていくのを、ピットロード出口で見ながらそのときを待った。90秒後にスタートしてこのスティント、水野はトップグループと遜色ないタイムで走行する。三人のライダーで8時間を走り切るため、二人が3スティント、一人が2スティントで走るのがオーソドックスな戦い方となる。水野はスタートライダーを務めると28周してピットイン。セカンドスティントは85周目から112周目まで、さらにサードスティントが167周目から194周目の担当となった。
ファースト、セカンドスティントとも、トップグループを走るライバルたちと遜色のないレベルで走ることができたが、真価を問われるサードスティント、さらに状況によってはエースライダーに課せられるフォーススティントと、多くのライダーを苦しませてきた後半スティントで水野は苦しめられた。
その状況を抜き出したのが表3だ。

 

比較したのは同じマシンを駆る高橋選手。チームHRCのライダーとして全日本を走り、マシンを造り上げてきた高橋選手は鈴鹿8耐も自身が中心となってチームを引っ張り、このレースもスタートライダーを務めて序盤の32周を担当。その後、63周目から91周目まで、120周目から148周目と3回のスティントを走り、チームメイトの体調不良により、決勝は二人で走らなければならなくなった高橋選手は120周目から148周目まで、177周目からは1回ピットストップをしながら連続走行を敢行し、216周して見せた。
そんな高橋選手と、水野が担当した第3スティントの180周目から194周目までのタイムを比較してみたのが表3だ。

速く走るためコンパクトに設定されたライディングポジションで、高速サーキットである鈴鹿を攻め続けるのは腰に大きな負担がかかる。第2スティント後半からその疲労は蓄積し、第3スティントは腰の痛みとの戦いになる。水野はこの第3スティントの苦しみを、この8耐で経験することになる。
もちろん、先輩である高橋選手もそうした苦しみを経験し、8耐トップライダーになってきた。高橋選手は終盤の連続スティントの中、199周目には2’7.413という驚異的タイムを出している。これは終盤のトップ争いをする勝負所で出したもの。  まだ水野にとってなにが足りないのか、明確に突きつけられた鈴鹿8耐となった。
そしてその反面、手応えを感じることができたのもこの鈴鹿8耐だった。足りないものはある。しかし、戦える部分もできている。それを8耐ウイークの中で水野は、確認することができたのだ。
8耐3週間後の全日本第5戦ツインリンクもてぎ大会。ここで水野は、なかなかレースで加われなかったトップ争いを、このクラスの絶対王者・中須賀選手相手に繰り広げ、優勝までもう一歩という2位になったのだ。レース中のファステストラップは水野。ここまで一つずつ積み上げてきた速さが、やっと全日本トップレベルに近付いてきていることを証明することができた。

続く第6戦岡山大会決勝は雨。高橋選手、中須賀選手といったベテランが手こずる中、水野はまたしても2位表彰台獲得。第7戦オートポリスは2レースとも4位。最終戦は第1レース3位、第2レースはマシントラブルを抱えながら6位完走し、シリーズランキング4位となった。

第5戦もてぎで2位表彰台獲得時には、チーム全員が弾けるような笑顔で水野を迎えたが、第6戦岡山ではスタッフに笑顔はなかった。全員が次に目指しているのは『優勝』で、その手応えがあるからこそ、笑顔はそこになかった。

「2019シーズン前半戦は前年と同じマシンでトップ争いに加われるようチャレンジした。タイヤがフレッシュなレース前半部分では、トップ争いに付いていくことができていたが、前年型マシンの課題の一つである高い旋回性を維持しながらタイヤへの負担を減らすという部分で厳しい部分があり、レース中盤から後半にかけてはどうしてもライバルから遅れてしまっていた。でも前半戦の戦いの中でそうした状況でもなんとか食らいついていこうとトライしていたから、その部分に対策が施された最新型ワークスマシンになったとき、最後までライバルに離されず、トップ争いに付いていけることができるようになった。こちらが想定した状況の中で、期待する対応と結果を出してきたことが、トップ三人に次ぐシリーズランキング4位獲得に繋がった」と、チーム監督の本田重樹は2019シーズンの水野の戦いを評する。

J-GP3クラスで2年、J-GP2クラスで2年。
水野がそれぞれのクラスでチャンピオン獲得に費やした時間だ。
恐らく本人はJSB1000クラスも、同じプロセスで行けると考えていたはず。特にJSB1000乗り始めのセパンサーキットでのテスト結果が良かっただけに、手応えもあっただろう。しかし全日本JSB1000クラスのトップライダーが、世界耐久選手権鈴鹿8耐でトップ争いを繰り広げる現実を見ても、そのレベルは世界基準と言えるほど高い。
苦しみ、厳しい現実を突き付けられながら、それを一つ一つ乗り越えてきている水野。2020シーズンはさらに、新型CBR1000RR-Rがデビューし、まったく新しいマシンをイチから造り上げるという作業も課せられた。
どんな成長を、そして走りを、水野が置かれた環境の中で見せていくのか。全日本開幕が待ち遠しい、2020シーズンの水野涼だ。